犬を飼育していると、時として異常行動を起こすこともあります。この異常行動のほんとどの原因はストレスにあるということをご存知でしょうか?異常行動という言葉に馴染みがなくても、問題行動と置き換えれば分かりやすいかもしれませんね。
異常行動(問題行動)というのは、以下のような行動を言います。
- 赤くただれてしまうまで足先を執拗に舐め続ける
- ぐるぐると回ることが多い
- 終始体を震わせている
- しょっちゅう痒がっている
- 生あくびが多い
- 怯えたように固まる・後ずさりする
- 靴下や手袋などを奪って振り回す
- トイレを失敗する
これらは、ストレスによって引き起こされる問題行動の一例ですが、深刻な状態になると飼育すること自体が困難になってしまうこともあります。犬を飼う前は、愛犬との楽しい時間を過ごしているシーンばかりを思い描いて飼育を始める人がほとんどでしょう。
しかし、そんな理想とは裏腹に、ストレスによって飼育不能に陥ってしまうなど本末転倒ですよね?そんなことにならないためにも、犬にストレスを与えない方法や、ストレスの兆候などを理解しておくことはとても重要なことなのです。
犬のストレス|その原因とは?
犬のストレスとなる要因はいくつかに大別することができます。
- 生活環境
- 生活習慣
- 疾病などに伴う外的要因
- コミュニケーション下手・不足
1.生活環境
これまで過ごしてきた生活環境の変化によって、犬が大きなストレスを抱えてしまうことはよく知られています。その代表例が引っ越しですね。引っ越しは飼育環境を一変させてしまうため、引っ越しを機に問題行動を引き起こす犬も多くいます。
また、騒々しい環境であったり、年中飼い主が犬をかまってばかりいたりすると、犬も十分な睡眠や休息を得られずにストレスを抱えてしまいます。
その他、家の眼の前で工事をしていたり、新たに新しいペットを迎えた場合、赤ちゃんが生まれて新しい家族が増えた場合なども、犬のストレスの要因となり得ます。
2.生活習慣
これは、食事や運動などに伴う生活習慣によって抱えるストレスです。例えば、以下のようなものが当てはまります。
- 餌の量が少なすぎることによるストレス
- 餌の与え過ぎによる体へのストレス
- 運動不足によるストレス
- 運動過多によるストレス
餌は適切な量を与えなければならないことは言うまでもありませんが、散歩は必要ないと言われているような犬種であっても、ある程度の運動は必要です。
年中ケージに閉じ込められていれば溜め込むストレスも多大なものになるでしょうし、運動不足による体調不良を招くことも想像に難くありません。栄養面・適度な運動などには十分な気を配ることが必要ですね。
3.疾病などに伴う外的要因
病気や怪我などで体の傷みや痒みによるストレスが生じます。もちろん、虫歯やダニ・ノミなどの寄生虫も同様です。疾病や怪我が原因でなくても、ストレスによって体を痒がったり舐めたりすることはよくありますが、場合によってはその行動は疾病や怪我によるものかもしれません。
その問題行動の原因がどこにあるのか(単純にストレスなのか疾病なのか)の見極めも怠らないようにしましょう。はっきりとした原因が分からないときは、獣医に相談してみるのがおすすめです。
4.コミュニケーション下手・不足
- 飼い主のコミュニケーション不足
- 飼い主による一方的な押し付け
- 犬の苦手なことばかりする
- 適切な幼少期を過ごせなかった犬に見られるコミュニケーション下手
こうしたことが原因でストレスを溜め込んでしまう犬も多く報告されています。最後の項目以外は、虐待や飼育放棄へと繋がってしまいかねないことで、犬を飼うのであれば絶対にしてはいけないことでもあります。
普段からまったくコミュニケーションを取らないのはあまりにもいい加減すぎますし、犬の習性などを理解しないまま無理矢理しつけを強要するなど言語道断です。犬は、「飼えば言うことをきく」というものではありません。
飼育前には犬の習性などを十分に理解しつつ、適度なコミュニケーションを図ることで信頼関係が構築されていくものです。
『犬を飼う→しつけをする』という行為の前提には、何よりも飼い主と犬との間に築かれるパートナーとしての信頼関係がなければならないということを知っておきましょう。
また、最後の項目にある「適切な幼少期を過ごせなかった犬に見られるコミュニケーション下手」ですが、これは犬の飼育前に注意しておくべきポイントとなります。生まれてすぐに母犬や兄弟たちと引き離されてしまった犬は社会性が養われていません。
他の犬との遊び方も分からないため、他の犬に大怪我をさせてしまうケースも多々あります。他の犬や人を怪我させてしまうのは確かに問題行動ですが、その陰には飼い主の飼育方法や幼少期の過ごし方などが原因として隠れているものです。
犬のせいではなく、人のせいだという前提に立って、問題解決を図る必要があります。
カーミングシグナルから分かるストレスサイン
『カーミングシグナル』という言葉を知っていますか?犬の「ボディランゲージ」を総称したものです。カーミングシグナルには、ストレスなどのさまざまな気持ちが隠れています。頭を振るしぐさもカーミングシグナルの1つである場合もあります。
カーミングシグナルとは?
犬は、不要な争いを避けるためだったり、自分の気持ちを表現したりするのに非音声的言語を使うそうです。それがカーミングシグナルです。犬同士がストレスを抱えないようにする手段とでも言いましょうか、気持ちを落ち着かせるために行っているものです。それだけでなく、相手に敵意がないことを示す動作もあります。
この合図はノルウェーの著名な動物学者ルーガス氏が発見したとされています(参考:しぐさでわかる「イヌのきもち」著者: わんこ友の会)。
犬のカーミングシグナルの種類
犬のカーミングシグナルは、27種類ほどあるとされています。その中でもよく見られるものを紹介したいと思います。
- 口をパクパクさせる:嫌がる気持ちを抑えているサイン
- 背中を見せる:「参った!」というサイン
- 前脚を上げる:緊張や興奮を落ち着かせるサイン
- 唇や鼻先を舐める:犬に対しては敵意がないこと、人間に対しては喜んでいるサイン
- 体を横にそらす:相手に敵意がないことを示すサイン
- 頭を下げてお尻を上げる:相手に敵意がない、「一緒に遊びたい」のサイン
- 伏せをする:興奮しすぎた自分の気持ちを抑えているサイン
- あくびをする:不安を落ち着かせるサイン。ため息をついているような感覚
- 地面の匂いを嗅ぐ:不安や興奮を抑え、自分を落ち着かせているサイン
- 円を描くように歩く:敵意がないことを表しているサイン
- 座る:争いを避けるサイン
- 鼻を持ち上げる:相手を落ち着かせようとするサイン
- 子犬のようにじゃれる:遊びの誘いのサイン
- 二者の間に割り込む:「注意して!」というサイン
などです。こうして見ると、犬を飼ったことがある人は、思い当たるしぐさがあると思います。カーミングシグナルということを知ったからこそ理解できるものがいくつかあるのではないでしょうか。
私は、愛犬が「あくびをする」のは、眠いのかと思っていました。実際は、気持ちを落ち着かせようとするため息のようなものだったと後になって知りました。
頭を振るのもストレスサインのひとつ
「頭を振る」というしぐさにはどのような意味があるのでしょう。
- 興奮した気持ちを落ち着ける
- 不快感やストレスがある
このような気持ちの現れのようです。犬にとっての「頭を振る」しぐさは、何らかのストレスに感じたときに反射的に出てしまうものです。ブルブルッと頭を振ることで、そのストレスになる感情などを緩和させているということです。
例えば、愛犬のしつけを始めたときや飼い主に怒られたとき、散歩中に他の犬と接近し終わった後、体が濡れたときなどがあります。
うちの子たちのことを振り返りますと、確かにしつけを始めたときは、結構頭を振っていたように感じます(頭だけでなく体ごと…)。不快さやストレスを感じていたのでしょう。その他に、定期検診で動物病院に行ったときなど、診察が終わると体をブルブルッとさせるだけでなく、その後に頭を振っていることがあります。
病気が潜んでいる場合も
一言で言えば「頭を振る」ですが、上記のようなカーミングシグナルとして発しているのか、はたまた病気でやっているのかを見分けることも必要です。この2つの違いを見極めるには、『その他の症状があるかないか』と『回数』だと思います。
病気の場合、頭を振ることがありますが、症状はそれだけではないはずです。耳に異常があれば、異臭がしてくるでしょうし、何度も不快な部分を触っているでしょう。それに食欲がなくなったり、元気がなくなったりという症状もあるかと思います。
頭を振る回数もチェックしてみてください。頻繁にやっている場合は、カーミングシグナルではなく、病気でやっている可能性が高いでしょう。別の症状と回数をチェックしてみてください。上記のような状態が見受けられる場合は、病気が隠れているのではないかと考えて、受診をすることをおすすめします。
頭を振る行動には、以下のような病気が潜んでいる場合がありますので、注意してください。
犬のストレスと解消方法まとめ
最後に、愛犬がストレスによる問題行動を引き起こしたらすべきことについてお話しておきましょう。できることなら、犬が問題行動を起こさないような飼育をしておくことが望ましいことですが、残念ながら飼い主の気付かない部分でストレスを抱えてしまっていることもあります。
犬は人間のように、趣味を持つとか遊びに行くなどといったストレス解消法を持ち合わせてはいません。ストレスを発散させて解消してあげるのは飼い主が気遣ってあげる以外に方法がないわけですね。
普段から十分なコミュニケーションを図れていれば、ストレスによる愛犬の変化にも敏感に気付いてあげることができます。
また、ストレスで異常行動を引き起こすということは、精神疾患予備軍になっている状態です。ストレス過多に陥って精神疾患を招いてしまうと、もはや飼い主の手ではどうしてあげることもできなくなります。
今現在、愛犬の問題行動に悩んでいる飼い主さんもいらっしゃるでしょう。そうした大きな問題に進行してしまう前に、今一度、愛犬との関係を見直してみましょう。場合によっては獣医やペット専門のカウンセラーなどに助言を求めることも選択肢に入れておきましょう。