犬の飼育を考えたことのある人なら、「血統書」という言葉を見聞きしたことがあるでしょう。この血統書というのは、その犬の血統――つまり血筋を示すためのものです。
では、なぜ血統書なるものが必要なのでしょうか?それは、その犬種本来の血統を管理することによって、純潔種を絶やさないようにするのが目的なのです。
現在存在しているたくさんの犬種は、血統の管理によって絶えることなくその血筋を連綿と受け継いできている犬たちだというわけですね。
犬の歴史は品種改良とともにありました
犬の歴史というのは、言い換えれば品種改良の歴史であると言っても過言ではありません。様々な犬種との交配によって、新しい犬種が作られてきたわけです。そうやって確立された新しい犬種には、掛け合わせた犬同士の様々な特徴が見られます。
そこから新しく誕生した犬種の特徴からスタンダードモデルが据えられ、その品種を守っていくために大切なのが、いわゆる「血統」であり、それを証明するための「血統書」というわけですね。
ちょっとややこしくて小難しいかもしれませんが、簡潔に分かりやすく言えば、しっかりと血統管理がされてこなければ、少なくとも現在我々が目にする犬のほとんどがMIX犬、つまり雑種だらけになっていても不思議ではないのです。
それだけ、血統管理は大切というわけですね。
血統書にはどんな役割がある?
では、血統管理、それに伴う血統書というものから何が分かるのでしょうか?血統書というのは、その犬種のスタンダードモデルの血筋を受け継いでいることの証明になります。
その代表的なものが、ジャパンケネルクラブ(JKC)の発行する血統書です。血統書から何が分かるのかというと、概ね以下のようなことを知ることができます。
- JKCに血統登録された同一犬種から生まれた子犬である
- 親犬からその祖先に至るまですべて同一犬種であることの証明(純血種)
- 生まれた子犬はスタンダードモデルにより近いことの証明
- より質の高い犬種を繁殖するために必要な祖先犬の情報提供
※以上、JKCホームページより抜粋
以上のことについて補足を加えてみましょう。
純血種であることの証明
1と2は、つまりその犬が純血種であることの証明ということになります。過去から現在に至るまで、他の犬種の血が混じることなく、血筋が連綿と受け継がれてきたことの証明ですね。
スタンダードモデルであるという証明
3は、その犬が標準犬種以上であることの証明となります。骨格や毛色など、その犬の特徴がはっきりと受け継がれていることの証明です。親犬、そしてその祖先からずっと受け継いできた犬種の特徴ということです。
祖先犬の情報も分かる
4は、その犬がどのような祖先の血筋なのかを知る上で重要なものです。血統書は人間の戸籍のようなもので、「犬籍」であり「出生届」でもあります。これは永久的に管理されるため、何代も前の祖先犬の情報も知ることができるのです。
血統書=犬籍=出生届は、より質の高い犬を繁殖する上でも重要なものであり、血統書の登録申請もJKCによって慎重に行われています。
優良ブリーダーによって繁殖されたことの証
つまり、JKCの発行する血統書が付帯する犬であれば、正規の繁殖業者(優良な繁殖業者)の繁殖したスタンダードモデルにより近い純血種であることの証明になるわけですね。
しかし、血統書すら付いていない犬種は親犬すら分からず、どのような犬が祖先犬なのかも知ることができません。もしかしたら劣悪な環境下で悪徳ブリーダーによって繁殖された犬である可能性も十分にあるわけです。
血統により価値にも高低がある
犬の価値というのは、その血統によっても変わってきます。例えば、親犬がJKCチャンピオンだとか、インターナショナル・チャンピオンであるという場合、やはりその子犬の価格も必然的に上がります。
それはなぜかというと、チャンピオン犬というのはほぼ完璧に近いスタンダードモデルであることの証だからです。その血統を受け継いだ子犬であれば、必然的に価値が上がってしまうわけですね。
しかも、優良血統であればあるほどブリーダーとしても手放したくありませんから、さらに高価になってしまうわけです。
同じひとつの命ですから価値に高低差がついてしまうのもおかしな話ではありますが、それはあくまでも表面的な価格面での話です。
どんな犬であっても飼い主にとってはイチバン価値の大きな犬です。それを否定しているわけではないのでご承知おきください。
血統書のすべてが正しいわけではありません!
ただし、血統書があるからと言って安心できないのも事実なのです。なぜかというと、血統書はJKCだけが発行しているものではなく、KCJ(日本社会福祉愛犬協会)という団体なども発行しているからです。
しかも、JKCでは血統書の登録に際して厳重な審査を行うのに対して、KCJなどは両親の血統書さえあれば誰でも簡単に登録できてしまうという背景もあります。JKCであれば、その子犬の親犬はJKCに登録された犬でなければならないという決まりがありますが、KCJでは他の団体に登録された親犬から生まれた子犬であってもOKとされているのです。
JKCでは管理された血統を基に審査が行われますが、KCJの場合、ヘタをすれば嘘の申告でも登録が可能だということになってしまいます。本来は別の親犬から生まれた子犬なのに、チャンピオン犬の子犬であるという嘘の申告をしても分からないというわけですよね。
これでは正当な血統証明とは言えません。少なくとも、血統書で信頼できるのはJKCのものだと言い切ってしまってもいいほどです。
ちなみに、JKCの発行した血統書は「JKC」、KCJの発行した血統書には「KC」という文字が入っていますから、どちらの血統書なのかを判断するのは容易です。
ペットショップなどで、「血統書付き」として販売されていた場合、どの団体の血統書なのかを購入前に聞いておくことも必要です。
ただしひとつだけ断っておきますが、決してKCJという団体を否定しているわけではありません。血統管理の面がやや不十分であるということと、仮に本当の血統証明であったとしても中には嘘の申告に基づいて発行されてしまっているものもあるため、信用度の面で不安が残るということを言いたいのです。
KCJの場合、一部のそうした詐欺的ブリーダーのせいで、イマイチ信用性が薄いと言わざるを得ないわけですね。
まとめ
可愛ければいい――たしかにそれもありますが、その犬の健康管理の面でも血統書の存在は欠かせません。
なぜなら、その血統からどのような病気を発症する可能性があるかも把握できるからです。
少なくとも、ブリーダーからの直接購入であれば、その子犬の血統(祖先犬の情報)についてもしっかりと把握しているので、詳細な特徴を教えてもらうこともできるのです。